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ナンディナーガリー文字 (Unicodeのブロック)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナンディナーガリー文字 (Unicodeのブロック)
Nandinagari
範囲 U+119A0..U+119FF
(96 個の符号位置)
追加多言語面
用字 ナンディナーガリー文字
主な言語・文字体系
割当済 65 個の符号位置
未使用 31 個の保留
Unicodeのバージョン履歴
12.0 65 (+65)
公式ページ
コード表 ∣ ウェブページ
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ナンディナーガリー文字(ナンディナーガリーもじ、英語: Nandinagari)は、Unicodeブロックの一つ。

解説

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8世紀から19世紀にかけて、現在の南インドのマハーラーシュトラ州南部、カルナータカ州アーンドラ・プラデーシュ州にあたる地域においてサンスクリット語を表記するために用いられていた[1]ナンディナーガリー文字を収録している。ヴィジャヤナガル王国1336年1646年)ではナンディーナーガリー文字が公的な地位を持っていた[1]。かつてカルナータカ州では、カンナダ語の表記にもナンディナガリー文字が用いられていた[1]

ナンディナーガリー文字はブラーフミー文字から派生した所謂ブラーフミー系文字(インド系文字)の一つであり、音素文字のうち子音字単独では暗黙の随伴母音/-a/を伴って発音され、別の母音にする際に母音記号を付加することで発音を切り替えるアブギダに分類される。ラテン文字などと同様に左から右への横書き(左横書き)であり、単語毎に分かち書きをする。デーヴァナーガリーとは異なり、文字の上部に引かれる水平線(シローレーカー)は文字同士で接続されない[1]

数字はカンナダ文字のものが使われる[1]

符号位置の順序はおおむねブラーフミー文字の順序に従っている。

Unicodeのバージョン12.0において初めて追加された。

収録文字

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ラテン文字転写」の列はブラーフミー系文字のラテン文字への翻字方式の一つであるISO 15919(及び一部はIAST)に従う。

コード 文字 文字名(英語) 用例・説明 ラテン文字転写
独立母音字
U+119A0 𑦠 NANDINAGARI LETTER A 短母音[a]を表す。 a
U+119A1 𑦡 NANDINAGARI LETTER AA 長母音[aː]を表す。 ā
U+119A2 𑦢 NANDINAGARI LETTER I 短母音[i]を表す。 i
U+119A3 𑦣 NANDINAGARI LETTER II 長母音[iː]を表す。 ī
U+119A4 𑦤 NANDINAGARI LETTER U 短母音[u]を表す。 u
U+119A5 𑦥 NANDINAGARI LETTER UU 長母音[uː]を表す。 ū
U+119A6 𑦦 NANDINAGARI LETTER VOCALIC R 音節主音化した短母音としてのR(IPA:[ɹ̩])を表す。 [2]
U+119A7 𑦧 NANDINAGARI LETTER VOCALIC RR 音節主音化した長母音としてのR(IPA:[ɹ̩ː])を表す。 r̥̄[3]
U+119A8 (予約済み) [4]
U+119A9 (予約済み) l̥̄[5]
U+119AA 𑦪 NANDINAGARI LETTER E 長母音[eː]を表す。 e
U+119AB 𑦫 NANDINAGARI LETTER AI 二重母音[ai̯]を表す。 ai
U+119AC 𑦬 NANDINAGARI LETTER O 長母音[oː]を表す。 o
U+119AD 𑦭 NANDINAGARI LETTER AU 二重母音[au̯]を表す。 au
子音字
U+119AE 𑦮 NANDINAGARI LETTER KA 子音[k]を表す。 k
U+119AF 𑦯 NANDINAGARI LETTER KHA 子音[kʰ]を表す。 kh
U+119B0 𑦰 NANDINAGARI LETTER GA 子音[ɡ]を表す。 g
U+119B1 𑦱 NANDINAGARI LETTER GHA 子音[ɡʱ]を表す。 gh
U+119B2 𑦲 NANDINAGARI LETTER NGA 子音[ŋ]を表す。
U+119B3 𑦳 NANDINAGARI LETTER CA 子音[c]を表す。 c
U+119B4 𑦴 NANDINAGARI LETTER CHA 子音[cʰ]を表す。 ch
U+119B5 𑦵 NANDINAGARI LETTER JA 子音[ɟ]を表す。 j
U+119B6 𑦶 NANDINAGARI LETTER JHA 子音[ɟʱ]を表す。 jh
U+119B7 𑦷 NANDINAGARI LETTER NYA 子音[ɲ]を表す。 ñ
U+119B8 𑦸 NANDINAGARI LETTER TTA 子音[ʈ]を表す。
U+119B9 𑦹 NANDINAGARI LETTER TTHA 子音[ʈʰ]を表す。 ṭh
U+119BA 𑦺 NANDINAGARI LETTER DDA 子音[ɖ]を表す。
U+119BB 𑦻 NANDINAGARI LETTER DDHA 子音[ɖʱ]を表す。 ḍh
U+119BC 𑦼 NANDINAGARI LETTER NNA 子音[ɳ]を表す。
U+119BD 𑦽 NANDINAGARI LETTER TA 子音[t]を表す。 t
U+119BE 𑦾 NANDINAGARI LETTER THA 子音[tʰ]を表す。 th
U+119BF 𑦿 NANDINAGARI LETTER DA 子音[d]を表す。 d
U+119C0 𑧀 NANDINAGARI LETTER DHA 子音[dʱ]を表す。 dh
U+119C1 𑧁 NANDINAGARI LETTER NA 子音[n]を表す。 n
U+119C2 𑧂 NANDINAGARI LETTER PA 子音[p]を表す。 p
U+119C3 𑧃 NANDINAGARI LETTER PHA 子音[pʰ]を表す。 ph
U+119C4 𑧄 NANDINAGARI LETTER BA 子音[b]を表す。 b
U+119C5 𑧅 NANDINAGARI LETTER BHA 子音[bʱ]を表す。 bh
U+119C6 𑧆 NANDINAGARI LETTER MA 子音[m]を表す。 m
U+119C7 𑧇 NANDINAGARI LETTER YA 子音[j]を表す。 y
U+119C8 𑧈 NANDINAGARI LETTER RA 子音[r]を表す。 r
U+119C9 𑧉 NANDINAGARI LETTER LA 子音[l]を表す。 l
U+119CA 𑧊 NANDINAGARI LETTER VA 子音[ʋ]を表す。 v
U+119CB 𑧋 NANDINAGARI LETTER SHA 子音[ɕ]を表す。 ś
U+119CC 𑧌 NANDINAGARI LETTER SSA 子音[ʂ]を表す。
U+119CD 𑧍 NANDINAGARI LETTER SA 子音[s]を表す。 s
U+119CE 𑧎 NANDINAGARI LETTER HA 子音[h]を表す。 h
U+119CF 𑧏 NANDINAGARI LETTER LLA 子音[ɭ]を表す。
U+119D0 𑧐 NANDINAGARI LETTER RRA 子音[ɽ]を表す。
従属母音記号
U+119D1 𑧑 NANDINAGARI VOWEL SIGN AA 長母音[aː]を表す。 ā
U+119D2 𑧒 NANDINAGARI VOWEL SIGN I 短母音[i]を表す。

文字の左側にレンダーされるため、符号上の文字順序と表示上の順序とが入れ替わる。

i
U+119D3 𑧓 NANDINAGARI VOWEL SIGN II 長母音[iː]を表す。 ī
U+119D4 𑧔 NANDINAGARI VOWEL SIGN U 短母音[u]を表す。 u
U+119D5 𑧕 NANDINAGARI VOWEL SIGN UU 長母音[uː]を表す。 ū
U+119D6 𑧖 NANDINAGARI VOWEL SIGN VOCALIC R 音節主音化した短母音としてのR(IPA:[ɹ̩])を表す。 [2]
U+119D7 𑧗 NANDINAGARI VOWEL SIGN VOCALIC RR 音節主音化した長母音としてのR(IPA:[ɹ̩ː])を表す。 r̥̄[3]
U+119D8 (予約済み) [4]
U+119D9 (予約済み) l̥̄[5]
U+119DA 𑧚 NANDINAGARI VOWEL SIGN E 長母音[eː]を表す。 e
U+119DB 𑧛 NANDINAGARI VOWEL SIGN AI 二重母音[ai̯]を表す。 ai
U+119DC 𑧜 NANDINAGARI VOWEL SIGN O 長母音[oː]を表す。 o
U+119DD 𑧝 NANDINAGARI VOWEL SIGN AU 二重母音[au̯]を表す。 au
各種記号
U+119DE 𑧞 NANDINAGARI SIGN ANUSVARA アヌスヴァーラ

直後に音節が後続する子音字に付き、直後の子音と同じ調音点鼻音が挿入されることを表す。日本語における「」に相当する。

U+119DF 𑧟 NANDINAGARI SIGN VISARGA ヴィサルガ

音節末に[h]を伴うことを表す。

U+119E0 𑧠 NANDINAGARI SIGN VIRAMA ヴィラーマ。殺母音記号。母音/-a/を発音せず子音のみが読まれることを表す。

レンダー上は、子音連続を表す場合次の文字と縦に並べて繋がったような合字を形成するための不可視の制御文字として機能する。

U+119E1 𑧡 NANDINAGARI SIGN AVAGRAHA アヴァグラハ。連音サンディ)によって語頭の母音 a が消えたことを表す。

現代のヒンディー語では母音を長母音化することを表す。

U+119E2 𑧢 NANDINAGARI SIGN SIDDHAM テキストの冒頭で祈りの言葉(invocation)として用いられる。

サンスクリットの सिद्धम् (siddham) 「成功」、或いはसिद्धिरस्तु (siddhirastu) 「成功がありますように」という言葉を表している。

約物
U+119E3 𑧣 NANDINAGARI HEADSTROKE シローレーカー。文字の上部に書かれる、一単語をつなぐ線。

スペースや隙間を埋める記号として使用される[6]。 筆記面の欠陥によって途切れた単語を繋いだり、仮置きとしても用いられる[1]

この文字が連続しても線は繋がらない[1]

従属母音記号
U+119E4 𑧤 NANDINAGARI VOWEL SIGN PRISHTHAMATRA E 初期の碑文において単独では母音eを、U+119DA 𑧚 NANDINAGARI VOWEL SIGN Eと結合して二重母音aiを、U+119D1 𑧑 NANDINAGARI VOWEL SIGN AAと結合して母音oを、U+119DC 𑧜 NANDINAGARI VOWEL SIGN Oと結合して二重母音auを形成するために用いられていた[7]

文字の左側にレンダーされるため、符号上の文字順序と表示上の順序とが入れ替わる。

小分類

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このブロックの小分類は「独立母音字」(Independent vowels)、「子音字」(Consonants)、「従属母音記号」(Dependent vowel signs)、「各種記号」(Various signs)、「約物」(Punctuation)、の5つとなっている[6]。本ブロックでは、Unicodeのバージョン更新時の文字追加が隙間を埋める形で行われた影響で、同一の小分類に属する文字が飛び飛びの符号位置に割り当てられていることがある。また、収録文字が1文字しかない小分類については小分類名が単数形で表現されているが、本記事では単数形か複数形かによる小分類名の表記ゆれについては別の小分類として扱わず、同一の小分類として扱うこととする。

独立母音字(Independent vowels

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この小分類にはナンディナーガリー文字のうち、頭子音のない母音の音節を表す際に用いられる独立した母音字が収録されている。

子音字(Consonants

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この小分類にはナンディナーガリー文字のうち、基本的な子音字が収録されている。

従属母音記号(Dependent vowel signs

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この小分類にはナンディナーガリー文字のうち、子音字に結合する母音記号が収録されている。

各種記号(Various signs

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この小分類にはナンディナーガリー文字のうち、母音字や子音字に結合する発音記号などの様々な記号が収録されている。

約物(Punctuation

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この小分類にはナンディナーガリー文字で用いられる句読点などの約物類が収録されている。

文字コード

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ナンディナーガリー文字(Nandinagari)[1]
Official Unicode Consortium code chart (PDF)
  0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
U+119Ax 𑦠 𑦡 𑦢 𑦣 𑦤 𑦥 𑦦 𑦧 𑦪 𑦫 𑦬 𑦭 𑦮 𑦯
U+119Bx 𑦰 𑦱 𑦲 𑦳 𑦴 𑦵 𑦶 𑦷 𑦸 𑦹 𑦺 𑦻 𑦼 𑦽 𑦾 𑦿
U+119Cx 𑧀 𑧁 𑧂 𑧃 𑧄 𑧅 𑧆 𑧇 𑧈 𑧉 𑧊 𑧋 𑧌 𑧍 𑧎 𑧏
U+119Dx 𑧐 𑧑 𑧒 𑧓 𑧔 𑧕 𑧖 𑧗 𑧚 𑧛 𑧜 𑧝 𑧞 𑧟
U+119Ex 𑧠 𑧡 𑧢 𑧣 𑧤
U+119Fx
注釈
1.^バージョン17.0時点


履歴

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以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。

バージョン コードポイント[a] 文字数 L2 ID ドキュメント
12.0 U+119A0..119A7,119AA..119D7,119DA..119E3 64 L2/16-002 Anshuman Pandey (7 January 2016), Proposal to encode the Nandinagari script (英語)
L2/16-057 Shriramana Sharma (24 February 2016), Comments on L2/16-002 Proposal to encode Nandinagari (英語)
L2/16-310 Anshuman Pandey (29 November 2016), Revised proposal to encode Nandinagari (英語)
L2/17-119 Anshuman Pandey (28 April 2017), Towards an encoding model for Nandinagari conjuncts (英語)
L2/17-162 Anshuman Pandey (9 May 2017), Final proposal to encode Nandinagari in Unicode (英語)
U+119E4 1 L2/17-213 Srinidhi A; Sridatta A (15 October 2017), Proposal to encode the Prishthamatra for Nandinagari (revised) (英語)
  1. ^ 提案されたコードポイントと文字の名前は、最終決定と異なる場合がある。

出典

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  1. ^ a b c d e f g Anshuman Pandey (2016年1月7日). “Proposal to encode the Nandinagari script” (英語). Unicode. 2025年9月18日閲覧。
  2. ^ a b IASTではṛと表記される。
  3. ^ a b IASTではṝと表記される。
  4. ^ a b IASTではḷと表記される。
  5. ^ a b IASTではḹと表記される。
  6. ^ a b “The Unicode Standard, Version 17.0 - U119A0.pdf” (PDF). The Unicode Standard (英語). 2025年9月18日閲覧.
  7. ^ Srinidhi A, Sridatta A (2017年10月15日). “Proposal to encode the Prishthamatra for Nandinagari (revised)” (英語). Unicode. 2025年9月18日閲覧。

関連項目

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