平和という名の廃墟

平和という名の廃墟; A Desolation Called Peace
著者	アーカディ・マーティーン
発行元	トーア・ブックス（米国）; 早川書房（日本）
ジャンル	サイエンス・フィクション
国	アメリカ合衆国
シリーズ	テイクスカラアン
言語	英語
形態	文学作品
ページ数	496（米国、ハードカバー）; 上巻：400、下巻：448（日本）
前作	帝国という名の記憶
コード	ISBN 978-1-250-18646-1（米国）; 上巻：ISBN 978-4150123833、下巻：ISBN 978-4150123840（日本）
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『平和という名の廃墟』（へいわというなのはいきょ、A Desolation Called Peace）は、アーカディ・マーティーンによる2021年のスペースオペラのサイエンス・フィクション長編小説。本作は、『帝国という名の記憶』の続編であり、マーティーンのテイクスカラアン・シリーズの2作目となる。前作同様にヒューゴー賞長編小説部門を受賞し、2022年のローカス賞 SF長編部門も受賞した。

あらすじ

『帝国という名の記憶』の数ヶ月後、異星人の勢力がテイクスカラアン帝国の工業コロニーで虐殺を行う。脅威への対処を命じられたテイクスカラアンのナイン・ハイビスカス提督は、情報省の専門家に不可解な敵との交信を試みるよう依頼する。その専門家とは、今や帝国の高官となったスリー・シーグラスであり、ルスエル・ステーションを経由して密かに前線に移動する。そこで彼女は、かつての仲間であり、今も名目上は帝国駐在大使であるマヒート・ドズマーレに同行するように説得する。マヒートはルスエルでの派閥争いによって高まる危険から逃れるチャンスと捉え、ルスエルの指導者の一人から帝国の異星人との戦争を長引かせるために、ファーストコンタクトを妨害するように命じられる。

ナイン・ハイビスカスの艦隊では、2人の女性が異星人との通信手段を開発し、恋愛関係を再出発させる。ナイン・ハイビスカスの副官であるトゥエンティ・シケイダの助けを借りて二人は敵との通信回線を確立するが、敵は個人の人格を理解していない集合意識であることが判明する。ナイン・ハイビスカスの反乱を起こした部下が、敵の母星の一つに大量破壊兵器による攻撃を開始したことで、二人の脆い休戦はほぼ破綻する。しかし、帝都にいた皇帝の若き後継者、エイト・アンチドートの介入により、ナイン・ハイビスカスは攻撃を阻止することができた。更なる戦争の可能性が薄れていく中、マヒートはルスエルとの縁を切った後、帝国での将来について考える。

主題

本作でも前作のテーマを引き継ぎ、征服と植民地主義、言語の構成要素、そして文化や制度との個人的な繋がりと言ったテーマが取り上げられている^[1]。また、本作では集合意識と言った新たなテーマも紹介している^[2]。

タイトルは、カレドニア人の首長がローマ帝国の政策について述べた言葉を引用したタキトゥスの有名なフレーズ「solitudinem faciunt, pacem appellant」（彼らは荒れ地を作り、それを平和と呼ぶ）を暗示している^[3]。

評価

BookPage の星付きレビューで、ノア・フラムは、マーティーンのデビュー作が、ユーモアと完璧な世界観を融合させ、心を掴む物語を紡ぐ才能を如実に示していた点と、より知的なテーマ探求を特徴とする『平和という名の廃墟』を比較し、「現代SFにおける最も巧妙で優雅な伏線の数々」を特徴としていると評している^[4]。彼は、『帝国という名の記憶』がヒューゴー賞にふさわしい作品であったとしても、『平和という名の廃墟』が「それを凌駕するかもしれない」と予測している^[4]。

Tor.com（英語版）のマーティン・ケイヒルによれば、この小説はアクション満載のスペースオペラであると同時に「アイデンティティ、言語、人格、そして真実を深く掘り下げた、複雑な作品」でもあるとのことである^[5]。リサ・タトルはガーディアン紙でこの小説を「諜報術、外交的陰謀、恐ろしい異星人に加え、知覚、コミニュケーションの方法、そして人間とはなにかという興味深い探究が加わった、一流のスペースオペラ」と評した^[6]。

受賞歴

年	賞	部門	結果	参照
2021	英国SF協会賞	長編	最終選考	^[7]
	ドラゴン賞（英語版）	SF長編小説	ノミネート	^[8]
	ネビュラ賞	長編小説	最終選考	^[9]
2022	アーサー・C・クラーク賞	—	最終選考	^[10]
	ヒューゴー賞	長編小説	受賞	^[11]
	ラムダ文学賞（英語版）	スペキュレイティヴ・フィクション（英語版）	最終選考	^[12]
	ローカス賞	SF長編	受賞	^[13]

脚注

^ Martini, Adrienne (2021年3月26日). “Adrienne Martini and Russell Letson Review A Desolation Called Peace by Arkady Martine”. Locus. 2025年8月7日閲覧。
^ Wang, Amy (2021年4月5日). “A Desolation Called Peace: Language and Personhood in a Space-Opera Sequel”. Cornell Sun. 2025年8月7日閲覧。
^ Tacitus, Agricola, ch. 30; See also Tacitean studies.
^ ^a ^b “Book Review - A Desolation Called Peace by Arkady Martine” (英語). BookPage.com (2021年2月25日). 2021年4月22日閲覧。
^ Cahill, Martin (2021年3月4日). “Arkady Martine Examines the Costs of Empire in A Desolation Called Peace” (英語). Tor.com. 2021年4月22日閲覧。
^ “The best recent science fiction and fantasy – reviews roundup” (英語). the Guardian (2021年3月12日). 2021年4月22日閲覧。
^ “2021 BSFA Award Winners”. Locus (2022年4月18日). 2025年6月25日閲覧。
^ “2021 Dragon Awards Winners”. Locus (2021年9月7日). 2025年7月9日閲覧。
^ “2021 Nebula Awards Winners”. Locus (2022年5月21日). 2025年7月22日閲覧。
^ “Giles Wins Clarke Award”. Locus (2022年10月26日). 2025年8月4日閲覧。
^ “2022 Hugo, Astounding, and Lodestar Awards Winners”. Locus (2022年9月4日). 2025年8月4日閲覧。
^ “24th Annual Lambda Awards Finalists”. Locus (2022年3月15日). 2025年8月4日閲覧。
^ “2022 Locus Awards Winners”. Locus (2022年6月25日). 2025年7月22日閲覧。

外部リンク

A Desolation Called Peace on tor.com

[1] Martini, Adrienne (2021年3月26日). “Adrienne Martini and Russell Letson Review A Desolation Called Peace by Arkady Martine”. Locus. 2025年8月7日閲覧。

[2] Wang, Amy (2021年4月5日). “A Desolation Called Peace: Language and Personhood in a Space-Opera Sequel”. Cornell Sun. 2025年8月7日閲覧。

[3] Tacitus, Agricola, ch. 30; See also Tacitean studies.

[:0-4] “Book Review - A Desolation Called Peace by Arkady Martine” (英語). BookPage.com (2021年2月25日). 2021年4月22日閲覧。

[5] Cahill, Martin (2021年3月4日). “Arkady Martine Examines the Costs of Empire in A Desolation Called Peace” (英語). Tor.com. 2021年4月22日閲覧。

[6] “The best recent science fiction and fantasy – reviews roundup” (英語). the Guardian (2021年3月12日). 2021年4月22日閲覧。

[bsfa2021-7] “2021 BSFA Award Winners”. Locus (2022年4月18日). 2025年6月25日閲覧。

[dragon2021-8] “2021 Dragon Awards Winners”. Locus (2021年9月7日). 2025年7月9日閲覧。

[nebula2021-9] “2021 Nebula Awards Winners”. Locus (2022年5月21日). 2025年7月22日閲覧。

[acc2022-10] “Giles Wins Clarke Award”. Locus (2022年10月26日). 2025年8月4日閲覧。

[hugo2022-11] “2022 Hugo, Astounding, and Lodestar Awards Winners”. Locus (2022年9月4日). 2025年8月4日閲覧。

[lambda2022-12] “24th Annual Lambda Awards Finalists”. Locus (2022年3月15日). 2025年8月4日閲覧。

[locus2022-13] “2022 Locus Awards Winners”. Locus (2022年6月25日). 2025年7月22日閲覧。

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表話編歴ヒューゴー賞長編小説部門
レトロ	『石に刺さった剣』テレンス・ハンベリー・ホワイト（1939年）『スラン』A・E・ヴァン・ヴォークト（1941年）『未知の地平線（英語版）』ロバート・A・ハインライン（1943年）『妻という名の魔女たち（英語版）』フリッツ・ライバー（1944年）『恐怖の火星争奪戦（英語版）』リイ・ブラケット（1945年）『ザ・ミュール』アイザック・アシモフ（1946年）『ガニメデの少年（英語版）』ロバート・A・ハインライン（1951年）『華氏451度』レイ・ブラッドベリ（1954年）
1953–1975	『分解された男』アルフレッド・ベスター（1953年）『ボシイの時代（英語版）』マーク・クリフトンとフランク・ライリイ（英語版）（1955年）『ダブル・スター』ロバート・A・ハインライン（1956年）『ビッグ・タイム（英語版）』フリッツ・ライバー（1958年）『悪魔の星（英語版）』ジェイムズ・ブリッシュ（1959年）『宇宙の戦士』ロバート・A・ハインライン（1960年）『黙示録3174年』ウォルター・M・ミラー・ジュニア（1961年）『異星の客』ロバート・A・ハインライン（1962年）『高い城の男』フィリップ・K・ディック（1963年）『中継ステーション』クリフォード・D・シマック（1964年）『放浪惑星（英語版）』フリッツ・ライバー（1965年）『デューン／砂の惑星』フランク・ハーバート / 『わが名はコンラッド（英語版）』ロジャー・ゼラズニイ（1966年）『月は無慈悲な夜の女王』ロバート・A・ハインライン（1967年）『光の王』ロジャー・ゼラズニイ（1968年） Stand on Zanzibar ジョン・ブラナー（1969年）『闇の左手』アーシュラ・K・ル＝グウィン（1970年）『リングワールド』ラリー・ニーヴン（1971年）『果てしなき河よ我を誘え』フィリップ・ホセ・ファーマー（1972年）『神々自身』アイザック・アシモフ（1973年）『宇宙のランデヴー』アーサー・C・クラーク（1974年）『所有せざる人々』アーシュラ・K・ル＝グウィン（1975年）
1976–2000	『終りなき戦い』ジョー・ホールドマン（1976年）『鳥の歌いまは絶え』ケイト・ウィルヘルム（1977年）『ゲイトウエイ（英語版）』フレデリック・ポール（1978年）『夢の蛇』ヴォンダ・N・マッキンタイア（1979年）『楽園の泉（英語版）』アーサー・C・クラーク（1980年）『雪の女王（英語版）』ジョーン・D・ヴィンジ（1981年）『ダウンビロウ・ステーション（英語版）』C・J・チェリイ（1982年）『ファウンデーションの彼方へ』アイザック・アシモフ（1983年）『スタータイド・ライジング』デイヴィッド・ブリン（1984年）『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン（1985年）『エンダーのゲーム』オーソン・スコット・カード（1986年）『死者の代弁者（英語版）』オーソン・スコット・カード（1987年）『知性化戦争』デイヴィッド・ブリン（1988年）『サイティーン（英語版）』C・J・チェリイ（1989年）『ハイペリオン』ダン・シモンズ（1990年）『ヴォル・ゲーム』ロイス・マクマスター・ビジョルド（1991年）『バラヤー内乱』ロイス・マクマスター・ビジョルド（1992年）『遠き神々の炎（英語版）』ヴァーナー・ヴィンジ / 『ドゥームズデイ・ブック』コニー・ウィリス（1993年）『グリーン・マーズ』キム・スタンリー・ロビンソン（1994年）『ミラー・ダンス』ロイス・マクマスター・ビジョルド（1995年）『ダイヤモンド・エイジ』ニール・スティーヴンスン（1996年）『ブルー・マーズ』キム・スタンリー・ロビンソン（1997年）『終わりなき平和（英語版）』ジョー・ホールドマン（1998年）『犬は勘定に入れませんあるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎（英語版）』コニー・ウィリス（1999年）『最果ての銀河船団（英語版）』ヴァーナー・ヴィンジ（2000年）
2001–現在	『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』J・K・ローリング（2001年）『アメリカン・ゴッズ（英語版）』ニール・ゲイマン（2002年）『ホミニッド ―原人―（英語版）』ロバート・J・ソウヤー（2003年）『影の棲む城』ロイス・マクマスター・ビジョルド（2004年）『ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル（英語版）』スザンナ・クラーク（2005年）『時間封鎖（英語版）』ロバート・チャールズ・ウィルスン（2006年）『レインボーズ・エンド（英語版）』ヴァーナー・ヴィンジ（2007年）『ユダヤ警官同盟』マイケル・シェイボン（2008年）『墓場の少年ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活（英語版）』ニール・ゲイマン（2009年）『ねじまき少女』パオロ・バチガルピ / 『都市と都市』チャイナ・ミエヴィル（2010年）『ブラックアウト』『オールクリア』（英語版）』コニー・ウィリス（2011年）『図書室の魔法（英語版）』ジョー・ウォルトン（2012年）『レッドスーツ（英語版）』ジョン・スコルジー（2013年）『叛逆航路』アン・レッキー（2014年）『三体』劉慈欣、翻訳はケン・リュウ（2015年）『第五の季節』N・K・ジェミシン（2016年）『オベリスクの門』N・K・ジェミシン（2017年）『輝石の空』 N・K・ジェミシン（2018年）『宇宙へ』メアリ・ロビネット・コワル（2019年）『帝国という名の記憶』アーカディ・マーティーン（2020年）『ネットワーク・エフェクト』マーサ・ウェルズ（2021年）『平和という名の廃墟』アーカディ・マーティーン（2022年） Nettle & Bone T・キングフィッシャー（英語版）（2023年）『宙の復讐者』エミリー・テッシュ（英語版）（2024年）

表話編歴ローカス賞 SF長編部門
1980–1990	『ティーターン（英語版）』ジョン・ヴァーリイ（1980年）『雪の女王（英語版）』ジョーン・D・ヴィンジ（1981年）『多彩の地（英語版）』ジュリアン・メイ（英語版）（1982年）『ファウンデーションの彼方へ』アイザック・アシモフ（1983年）『スタータイド・ライジング』デイヴィッド・ブリン（1984年）『インテグラル・ツリー』ラリー・ニーヴン（1985年）『ポストマン』デイヴィッド・ブリン（1986年）『死者の代弁者（英語版）』オースン・スコット・カード（1987年）『知性化戦争（英語版）』デイヴィッド・ブリン（1988年）『サイティーン（英語版）』 C・J・チェリイ（1989年）『ハイペリオン』ダン・シモンズ（1990年）
1991–2000	『ハイペリオンの没落』ダン・シモンズ（1991年）『バラヤー内乱（英語版）』ロイス・マクマスター・ビジョルド（1992年）『ドゥームズデイ・ブック』コニー・ウィリス（1993年）『グリーン・マーズ（英語版）』キム・スタンリー・ロビンスン（1994年）『ミラー・ダンス（英語版）』ロイス・マクマスター・ビジョルド（1995年）『ダイヤモンド・エイジ』ニール・スティーヴンスン（1996年）『ブルー・マーズ（英語版）』キム・スタンリー・ロビンスン（1997年）『エンディミオンの覚醒（英語版）』ダン・シモンズ（1998年）『犬は勘定に入れませんあるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎（英語版）』コニー・ウィリス（1999年）『クリプトノミコン（英語版）』ニール・スティーヴンスン（2000年）
2001–2010	『言の葉の樹（英語版）』アーシュラ・K・ル＝グウィン（2001年）『航路（英語版）』コニー・ウィリス（2002年） The Years of Rice and Saltキム・スタンリー・ロビンスン（2003年）『イリアム（英語版）』ロイス・マクマスター・ビジョルド（2004年） ≪バロック・サイクル≫シリーズ（英語版）ニール・スティーヴンスン（2005年）『アッチェレランド』チャールズ・ストロス（2006年）『レインボーズ・エンド（英語版）』ヴァーナー・ヴィンジ（2007年）『ユダヤ警官同盟』マイケル・シェイボン（2008年） Anathem ニール・スティーヴンスン（2009年）『ボーンシェイカー（英語版）』シェリー・プリースト（英語版）（2010年）
2011–2020	『ブラックアウト』『オール・クリア』（英語版）コニー・ウィリス（2011年）『言語都市（英語版）』チャイナ・ミエヴィル（2012年）『レッドスーツ（英語版）』ジョン・スコルジー（2013年） Abaddon's Gate ジェイムズ・S・A・コーリイ（英語版）（2014年）『亡霊星域』アン・レッキー（2015年）『星群艦隊』アン・レッキー（2016年）『三体III 死神永生』劉慈欣（2017年）『星間帝国の皇女――ラスト・エンペロー（英語版）』ジョン・スコルジー（2018年）『宇宙へ』メアリ・ロビネット・コワル（2019年） The City in the Middle of the Night チャーリー・ジェーン・アンダーズ（2020年）
2021–現在	『ネットワーク・エフェクト』マーサ・ウェルズ（2021年）『平和という名の廃墟』アーカディ・マーティーン（2022年）『怪獣保護協会（英語版）』ジョン・スコルジー（2023年）『システム・クラッシュ』マーサ・ウェルズ（2024年） Man Who Saw Seconds The Man Who Saw Seconds アレクサンダー・ボルディザール（英語版）（2025年）
長編部門 (1971–1981) SF長編部門 (1980–現在) ファンタジイ長編部門 (1978–現在) 第一長編部門 (1981–現在) ホラー長編部門 (1989–1997, 1999, 2017–現在) ヤングアダルト部門 (2003–現在) 中長編部門 (1973–2018) 中編部門 (1975–現在) 短編部門 (1971–現在)