森林衰退
森林衰退(しんりんすいたい)とは、森林において樹木の梢端枯れ(dieback)や立ち枯れが継続的に多発している状態[1]。風害や冠雪害のような一過性の原因によるものは除かれる[1]。
英語のforest diebackあるいはforest declineに当たる[1]。梢端枯れ(dieback)、林分衰退(stand level dieback)、林冠衰退(canopy level die back)、森林死(Waldsterben)などの語があるが、ほぼ同義語と考えられている[1]。イギリスではforest decline、アメリカでは主にforest dieback、ドイツでWaldsterben(森林死)と呼ばれている[2]。
概要
[編集]物理的損傷など明確で単一な要因による標徴がないにもかかわらず、樹木や林分の活力と健全性が徐々に失われることをいう[1]。森林の衰退の考え方については、定義によって原因の捉え方も変わってくる[1]。乱伐とそれに続く土地利用の変化による森林の消滅、砂漠化に関して、熱帯諸国などでは商業伐採によって天然更新がうまく行われなくなったと指摘されているが、この問題についてこれらの地域では「森林衰退」の表現は使われず「森林劣化」と呼ばれている[1]。
歴史
[編集]1970年代初頭に西ドイツで黒い森と呼ばれているシュヴァルツヴァルトのモミに、葉が黄色化して早期落葉し、やがて樹冠全体の葉量が減少して枯死に至る現象が報告された[2]。以後、1979年までにトウヒでも同じような症状がみられるようになった[2]。
1980年から1984年にかけて、中部ヨーロッパ、スカンジナビア半島南部、イタリア北部、バルカン半島の一部、ヨーロッパ東部のほぼ全域でトウヒ林の衰退が確認された[2]。さらに、この森林衰退はヨーロッパアカマツ、ヨーロッパブナにも及んでいることも明らかになった[2]。
要因
[編集]学説
[編集]森林衰退を引き起こしている主な原因については種々の学説が唱えられてきた[2]。
- 土壌の酸性化(アルミニウム毒性説)
- ゲッチンゲン大学のUlrichのグループが1980年代に提唱した仮説[2]。
- 土壌塩類欠乏説
- ミュンヘン大学のRehfuessが提唱する仮説[2]。
- オゾン説
- オゾンによる葉の光合成阻害や生理機能障害が樹木の生長を抑制しているとする説[2]。
- 窒素過剰説
- 窒素の過剰供給(窒素酸化物の増加)により木の生長のアンバランスや窒素以外の栄養塩類の欠乏症が原因になっているとする説[2]。
- ストレス複合説
- 自然要因や人為的要因による多数のストレスが相加的、相乗的に作用しているとする説で、多くの研究者により支持されている[2]。
生物的要因と非生物的要因
[編集]森林衰退に関係する要因には生物的要因と非生物的要因がある[1]。
- 生物的要因
- ウイルス、マイコプラズマ様微生物(MLOs)、菌、バクテリア、昆虫、線虫、高等寄生植物など、主として寄生生物が原因となり感染するもの[1]。
- 非生物的要因
- 干ばつ、強風、大雨、潮害、強風などの自然現象、植物に有害な環境汚染、誤った森林施業など人間活動を原因とするものも含む[1]。