等弾力的効用関数

等弾力的効用関数(とうだんりょくてきこうようかんすう、英: Isoelastic utility function)は、消費や意思決定者が関心を持つ他の経済変数に関して効用を表現するために用いられる関数である。アイソエラスティック効用関数は双曲絶対的危険回避の特別な場合であり、同時に相対的危険回避度が一定である唯一の効用関数族であるため、CRRA効用関数(Constant relative risk aversion utility function)とも呼ばれる。また、統計学においては同じ関数がボックス=コックス変換と呼ばれる。
定義
[編集]その定義は以下の通りである。
ここで は消費、 は対応する効用、 は正の定数であり、リスク回避的な主体に対しては正の値をとる[1]。目的関数に加法的な定数項を加えても最適化の結果には影響しないため、分子の –1 は省略されることもある(ただし、 の極限で を得るためには保持する必要がある)。この関数族はべき関数と対数関数の両方を含むため、パワーログ効用関数(power-log utility)とも呼ばれる[2]。
リスクを含む文脈では、この効用関数はフォン・ノイマン=モルゲンシュテルン効用関数として扱われ、パラメータ は相対的危険回避度を表す。
アイソエラスティック効用関数は双曲絶対的危険回避効用関数の特別な場合であり、基礎的なリスクを含む分析にも、含まない分析にも用いられる。
実証値
[編集]経済学や金融学の文献では、 の真の値について大きな議論がある。資産価格の挙動を説明するためには非常に大きな (モデルによっては50に達する)[3] が必要とされる一方で、多くの実験では は 1 よりわずかに大きい程度とする結果が得られている。例えば、Groom と Maddison (2019) はイギリスにおいて の値を1.5と推定し[4]、Evans (2005) はOECD20か国において約1.4と推定した[5]。また、所得の効用は主観的幸福度調査によっても推定でき、Layard ら (2008) は6つの調査から 1.19〜1.34 の範囲で推定し、総合推定値を1.26とした[6]。
危険回避の特徴
[編集]この効用関数は相対的危険回避度が一定であるという特徴を持つ。数学的には が定数(すなわち )であることを意味する。理論モデルでは、意思決定が規模に依存しないことを示唆する。例えば、1つの安全資産と1つのリスク資産からなる標準モデルでは、CRRAの下でリスク資産に最適に配分される富の割合は初期の富の水準に依存しない[7][8]。
特殊な場合
[編集]- :効用は消費に対して線形であり、リスク中立的であることを意味する。
- :ロピタルの定理により のとき となる:
- :無限大の危険回避を意味する。
出典
[編集]- ^ Ljungqvist, Lars; Sargent, Thomas J. (2000). Recursive Macroeconomic Theory. London: MIT Press. p. 451. ISBN 978-0262194518
- ^ Kale, Jivendra K. (2009). “Growth maximisation and downside protection using power-log utility functions for optimising portfolios with derivatives” (英語). International Journal of Computer Applications in Technology 34 (4): 309. doi:10.1504/IJCAT.2009.024085. ISSN 0952-8091 .
- ^ Mehra, Rajnish; Prescott, Edward (1985). “The Equity Premium Puzzle”. Journal of Monetary Economics 15: 145–161.
- ^ Groom, Ben; Maddison, David (2019). “New Estimates of the Elasticity of Marginal Utility for the UK”. Environmental and Resource Economics 72 (4): 1155–1182. doi:10.1007/s10640-018-0242-z .
- ^ Evans, David (2005). “The Elasticity of Marginal Utility of Consumption: Estimates for 20 OECD Countries”. Fiscal Studies 26 (2): 197–224. doi:10.1111/j.1475-5890.2005.00010.x. JSTOR 24440019 2021年1月1日閲覧。.
- ^ Layard, Richard; Mayraz, Guy; Nickell, Steve (2008). “The Marginal Utility of Income”. Journal of Public Economics 92: 1846-1857. doi:10.1016/j.jpubeco.2008.01.007. hdl:10419/150599 2024年3月17日閲覧。.
- ^ Arrow, K. J. (1965). “The theory of risk aversion”. Aspects of the Theory of Risk Bearing. Helsinki: Yrjo Jahnssonin Saatio Reprinted in: Essays in the Theory of Risk Bearing. Chicago: Markham. (1971). pp. 90–109. ISBN 978-0841020016
- ^ Pratt, J. W. (1964). “Risk aversion in the small and in the large”. Econometrica 32 (1–2): 122–136. doi:10.2307/1913738. JSTOR 1913738.